2020 2.10

テヅカイチロウイイタイホウダイ

2月2日〜5日
アマミにいってきました。

その男はヒョウヒョウとしている。
あまりに奄美について博識なので、
「大学の教授にでもなればいいのに」というと
「ボクは大学いってないんでスヨ」
「エッ、ドウシテ」とボク
「イヤ、浪人してやっと早稲田に受かって、入学金として30万円
親から送ってもらったんだけどね。
その夜新宿で、女の子をあつめて全部飲んじゃったんだヨネ」
「ヘエーッ」とアキレル
「ところがね オレついているんだヨネ、ホントノホントにね」
「ドウシテ」とボク
「イヤ 幸福なことに、
帰ったら住んでるアパート丸焼けで その日にね。
お金ももえちゃった テ、コトニナッタ」
「ダカラ ボクは大学にいってない」

幸運にもハクシキ豊かなその男と
今日飲んだ。
アマミのハナシを
「真実を 事実を かかなきゃダメダ」
とナンドもナンドも語った。
マジメなのだ。

その夜タクシーに乗り、送っていった女が
「ドコニユクノ?」といっても
ソコ といって イッコウに降りようとシナイ
「ワタシ アシタハヤイから。
ココからヒトリデカエッテネ」

グダグダによった男はタクシーにのこされ、
帰りがけに女が
フト なにげなくフリかえると
暗い雨のナカ
その男が迷い犬のヨウニ
ヨロヨロと
グルグルと、
雨の名瀬のマチを
マワリツヅケテイル
11時くらいだろうか。

「おい。ときちゃん、帰らん?」
「えー。帰りますが。まったい。帰っとっていいが。ごめん」
「なんでえ」

——これは女子高生の会話だ。
東京のあたりでなら、たぶん、
「ねえ、ときちゃん、帰らない?」
「ええ、帰るわ。あ、だめ!先に帰ってよ。ごめんなさい」
「あら、どうして」——
とでもいうところだろう。※1

<出典>※1島尾敏雄『名瀬だより』人間選書 2005年1月発行

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