2021.9.6

テヅカイチロウイイタイホウダイ

ポチテカの頭脳には、この宇宙と人間をコントロールするものとしての暦が組み込まれていた。世襲の機能集団としてのポチテカは、旅の実体験を通じて、この暦を頭脳として自己の内部にとり込む訓練を重ねたのだ。彼らが、遠い旅立ちのために曙光を浴びるアステカの首都テノチティトラン(現在のメキシコシティー)をあとにする日も、また、異境の秘密の叡知を奪ってひっそりと黄昏の故郷の町に帰りつく日も、こうして季節のサイクルのなかで厳格に決定されることになった。
とくにポチテカたちの首都への帰還の日取りは、正確に一つの自然現象と重なるようにセットされた。それが蝶の来訪だった。いまでも毎年十一月のある日、カナダから五千キロメートルの距離を渡ってメキシコのある山中にあやまたずたどり着くマダラチョウの大集団がある。そのオオカバマダラの集団は、メヒコ州とミチョアカン州の州堺付近にひときわ高くそびえる黒々とした山の頂ちかくに立つ数本の樅の木に、毎年寸分の狂いもなく到達し、その枝にしがみつくようにして越冬する。無数の蝶によって覆われた大木は、葉も枝も見えなくなってしまうという。<蝶の木>の誕生だ。
生物学者によると、この集団越冬はすでに数千年のあいだ続いてきた。そしてこの蝶の移動は太陽の季節的な動きと連動しており、天文学的な星座の運行そのものに関係している可能性があった。そしてまさにそのことによって、オオカバマダラの旅のスタイルはナワトル哲学における(運動)=<オリオン>の理想のかたちを示していた。こうした理由のために、旅の専門家としてのポチテカは自分たちをオオカバマダラ(ナワトル語ではこれを<イツパパロトゥル>とう呼んだ)の化身であるといつの頃からかみなすようになった。(荒野のロマネスク (岩波現代文庫 文芸 36) | 今福 龍太)

こういうイベント ヤリタイナア。

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