横丁インタビューズ 新橋その3

「再々開発」は果たして可能か?

手塚:このビルがもし、また建て替えとなると、どんなふうになるんでしょうか?

真部:最初はこの一棟でという話でしたが、土地の制限があり、20階以上を建てるといまの面積は維持できません。広場をつくらなくてはいけないので。そうすると、鉛筆ビルみたいになってしまう。そこで、烏森の向こうに桜田小学校というのがあったんですが、その土地を含めて再開発しよう、という話がいま出ているんです。A、B、C3棟建てるという。じっさいは、だいぶ先に、20年くらい先になるでしょうけど。

原:2023年を目指すと新聞記事に出ていました。

真部:あと20年ですか?とてもとても。やっとその年あたりに話が一本化されて、「やりましょう」となるんじゃないでしょうか。このビルと、公園と小学校3区画でやるとして、全部含めて再開発はいいですよと。ただこのニュー新橋ビルに関していえば「再々開発」なので、補助金の対象にはならないですよ、という話が役所から出てきます。

原:開発に関しては、ビルに入られている方は、おおむね賛成なんですか?

真部:おおむね賛成なんですが、昔から言いますが、「総論賛成、各論反対」という問題があります。その「各論」の段階になったとき、一番、時間がかかり、手間がかかる。ここはいい場所なんですが、手を付けるディベロッパーが誰もいなかった。ここは土地の成り立ちがものすごく複雑です。このビルの地権者だけでも337人いる訳ですから。それが外国人であったり、又貸しの又貸しであったり、入り組んでいる。そういうのを調べれば調べるほどイヤになっちゃうんですね。この辺りは森ビルが多いんですが、一度知恵を貸してほしいと話にいきました。ところが「おたくは大勢いらっしゃるから、話をまとめてくれればいつでもお手伝いしますよ」と(笑)。この「話をまとめる」のが大変なんですよ。

原:横丁を共同ビル化する際、「場所」の問題が出てきます。角の場所がいいとか、2階は嫌だとか。そこを斟酌していると、永遠に話が進まないようです。

真部:うちの店も当初は1階の入り口を希望していたんです。ところが希望者が多かった。すると、うちの場合は抽選なんです。それが一番公平ですから。うちは親父が抽選して外れちゃったんですけど。今度このビルを開発するとして、「持ち分割合」をどうするかという話になると、喧々諤々です。「自分の名前の土地が欲しい」とか、「登記してくれ」とか、そういう人がいっぱい出てきますから。それじゃあまた同じこと繰り返しです。そうじゃなくて、「みんな公平なパーセント割合でいきましょう」という風に、誰が説得してくれるかということなんです。

 

赤ちょうちんとオジンの街は永遠に

真部:いま、1階は金券ショップが増えました。昔は全然なくて、皆さん飲食店でした。新橋にこれほど出来る前は、神田駅の周辺が多かったんです。あと、このビルの特徴になったのはマッサージ屋さんです。2階だけでも20軒くらいあります。あん摩、指圧というのは国家資格ですが、マッサージはオーナーが資格を持っていれば、あまりうるさいことは言われません。設備投資もいらない。ただ、従業員はタオル代、ベッド代をピンハネされるので、呼び込みが激しいんです。一時は、悪い評判も出たんです。「お金を出せば、それ以上のサービスをしてくれる」とか「いかがわしいことをやっている」とか。それじゃあ、商売の首を絞めることにもなり、お互いよくないということで、そういううわさはなくなりました。このビルのなかでも、呼び込みは評判がよくないから、と反対する人もいます。自粛して、大人しくしてくださいと。でもみんな一生懸命なんですよね。それならば、「駅前のニュー新橋ビルに行けば天下のマッサージ屋がある」と、いっそブランド化すればいいと、私は言うんです。お店は増えることはあっても、減ることはないんですから。それなら、お互いルールを作って。サラリーマンの方は朝から仕事して、疲れて帰る。たまには、若い女の子にマッサージされて、悪い気はしないでしょう?お家に帰って、奥さんに「肩揉め」って言ったって、出来るわけないです(笑)。そういうイメージでやってほしいんですね。

手塚:新橋はすごくいいと思います。僕は焼き鳥屋で、入口に私物が積んであるような、薄汚くて、でも美味しいという店によく食べに行きます。新橋は立ち飲みの発祥みたいな土地ですもんね。このビルの地下はそんな横丁の雰囲気がしっかりあります。

真部:うちの親父たち、初代のころの雰囲気は、それなりの良さを持っていました。ぎすぎすしたものがなかったです。それが、世代が変わり、だんだん変わってきました。それはほかの街、商店街もそうだと思います。もちろん、合理化や、売り上げ第一主義みたいなものがなくはないです。うちも、焼き鳥一本、生ビール一杯の積み重ねですから。口を開けてりゃお客さんが流れてくる、なんて昔の昔のはなし。バブルでいい時もありましたが、やはり、従業員の質、教育の問題なんです。

手塚:今後は「再々開発」に向かって突き進むという感じですか?

真部:ビルの建て直しに関しては、みんな一生懸命やっています。「船頭多くして船山に上る」という面もありますが。このビルの将来は、建て直す。しかし、汐留のオフィス街のような、ああいった雰囲気ではなく、ある程度、新橋の土地柄を残したビルですね。このビルも出来た当初は斬新で、注目されました。それが古くなっちゃって、まわりもきれいになって、あまり来なくなった。周囲に負けないような設備を持ったものつくれば、また必ず人は来てくれると思っています。

 

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